比べてみた!UTMとゼロトラストの5つの違い
2025/07/17

「ゼロトラスト」という言葉を耳にする機会が増える中、多くの企業が「今使っているUTMファイアウォールで十分なのか?」「ゼロトラストに移行すべきなのか?」という疑問を抱いています。特に、既存のUTM環境で安定稼働している企業にとって、新しいセキュリティアプローチへの移行は重要な経営判断となります。
しかし、UTMとゼロトラストは根本的に異なるセキュリティ思想に基づいており、単純に「新旧の技術」として比較できるものではありません。それぞれが解決する課題や適用場面も大きく異なるため、正確な理解なしに判断を下すことは危険です。
今回は、セキュリティ担当者が適切な投資判断を行えるよう、UTMとゼロトラストの本質的な違いを5つの観点から詳しく比較分析します。
1. UTMとゼロトラストの5つの違い
まず、UTMとゼロトラストの違いをまとめると、以下の5点があげられます。
(1)セキュリティアプローチの違い - 境界防御 vs 常時検証
(2)信頼モデルの違い - 内部信頼 vs 信頼しない前提
(3)技術構成の違い - 一体型装置 vs 分散型サービス
(4)運用・管理の違い - 集中管理 vs 統合プラットフォーム
(5)コスト・導入の違い - 初期投資重視 vs 継続投資モデル
それぞれの違いが企業のセキュリティ戦略にどのような影響を与え、どちらを選択すべきかの判断材料を詳しく解説していきます。
(1)セキュリティアプローチの違い
UTMとゼロトラストの最も根本的な違いは、セキュリティに対する基本的な考え方にあります。この思想の違いが、すべての技術選択と運用方針に影響を与えます。
UTMの境界防御アプローチ
UTMファイアウォールは「境界防御」の思想に基づいています。企業ネットワークの境界線を明確に定義し、外部からの侵入を水際で阻止することに重点を置きます。城壁で守られた城のように、一度内部に入った通信は比較的自由に流れることを前提としています。
この考え方では、ファイアウォール、IPS、Webフィルタリング、VPNなどの機能を統合し、境界の一箇所で包括的な防御を行います。外部脅威の検知・遮断に優れており、管理が比較的シンプルで、中小企業でも導入しやすい特徴があります。
ゼロトラストの常時検証アプローチ
一方、ゼロトラストは「信頼しない、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」を基本原則とします。内部・外部の区別なく、すべてのアクセス要求を疑い、継続的に検証し続けることを前提とします。
このアプローチでは、ユーザー、デバイス、アプリケーション、データのすべてが潜在的な脅威源として扱われ、アクセスのたびにリアルタイムで権限や状態を確認します。最小権限の原則に基づき、必要最小限のアクセスのみを許可します。
現代の脅威環境における有効性
従来の境界防御は、攻撃者が境界を突破した後の「横展開攻撃」に対して脆弱性があります。一方、ゼロトラストは内部侵入後の被害拡大を防ぐ点で優れていますが、実装の複雑さと運用負荷が課題となります。
(2)信頼モデルの違い
セキュリティにおける「信頼」の概念は、システム設計と運用方針を大きく左右します。UTMとゼロトラストでは、この信頼モデルが正反対の思想に基づいています。
UTMの内部信頼モデル
UTMでは、適切に認証されて内部ネットワークに接続されたユーザーやデバイスは「信頼できる」ものとして扱われます。VPN認証を通過したリモートユーザーも、社内ネットワークと同等の信頼レベルで扱われることが一般的です。
この信頼は比較的長時間持続し、再認証の頻度も低く設定されます。一度信頼されたセッションは、明示的に切断されるまで継続されるため、ユーザーの利便性は高く保たれます。
ゼロトラストの信頼しない前提
ゼロトラストでは、いかなるユーザーやデバイスも初期状態では「信頼しない」ことが原則です。過去の認証履歴や内部ネットワークからのアクセスであっても、常に現在の状態を検証し続けます。
信頼は短時間で期限切れとなり、継続的な再認証や状態確認が求められます。アクセス権限も動的に変更され、リスクレベルの変化に応じてリアルタイムで調整されます。
実務への影響
内部信頼モデルでは運用がシンプルで、ユーザーの利便性も高い反面、内部脅威や侵入後の被害拡大リスクがあります。
信頼しない前提では、セキュリティレベルは向上しますが、運用の複雑さとユーザー体験への影響が課題となります。
(3)技術構成の違い
UTMとゼロトラストでは、セキュリティ機能を実現するための技術アーキテクチャが根本的に異なります。この違いが、導入方法、運用方法、拡張性に大きな影響を与えます。
UTMの一体型装置アプローチ
UTMファイアウォールは、複数のセキュリティ機能を単一の物理的または仮想的な装置に統合したアプローチです。ファイアウォール、IPS、アンチウイルス、Webフィルタリング、VPN機能などが一つのプラットフォームで提供されます。
この構成により、設定の一貫性が保たれ、機能間の連携も密接に行われます。ハードウェアの調達、設置、保守も一元化できるため、管理負荷を大幅に軽減できます。特に、専門的なIT人材が限られる中小企業にとって、この統合性は大きなメリットとなります。
ゼロトラストの分散型サービス
ゼロトラストでは、各セキュリティ機能が独立したサービスとして分散配置されます。アイデンティティ管理、デバイス管理、ネットワークアクセス制御、データ保護などが、それぞれ専門特化したソリューションとして提供されます。
SASE(Secure Access Service Edge)やSSE(Security Service Edge)といったクラウドベースのサービスとして統合されることが多く、物理的な境界にとらわれない柔軟な展開が可能です。
拡張性と柔軟性の比較
一体型のUTMは、導入の簡単さと運用の統一性に優れていますが、特定機能の強化や部分的な更新が困難な場合があります。分散型のゼロトラストは、各機能を独立して強化・更新できる柔軟性がありますが、複数のサービス間の連携設定や統合運用の複雑さが課題となります。
(4)運用・管理の違い
日常的なセキュリティ運用において、UTMとゼロトラストでは管理方法、監視内容、対応手順が大きく異なります。これらの違いは、IT担当者の業務負荷と必要なスキルセットに直接影響します。
UTMの集中管理アプローチ
UTMでは、単一の管理画面からすべてのセキュリティ機能を制御できます。ログの確認、ポリシーの設定、脅威の対応などが一元的に行えるため、管理者の学習コストを抑制できます。
設定変更の影響範囲も予測しやすく、トラブルシューティングも比較的単純です。定期的なファームウェア更新や設定バックアップなどの保守作業も、一つのシステムに対してのみ実施すれば済みます。
ゼロトラストの統合プラットフォーム
ゼロトラストでは、複数のセキュリティサービスを統合するプラットフォームが必要になります。SIEM(Security Information and Event Management)やSOAR(Security Orchestration, Automation and Response)などの高度な管理ツールを活用し、各サービスからの情報を統合分析します。
リアルタイムでの脅威検知、自動的なポリシー適用、動的なリスク評価など、より高度な運用が可能になりますが、管理者には専門的なスキルと継続的な学習が求められます。
運用負荷と専門性の要求
UTMでは比較的少ない専門知識で安定運用が可能ですが、高度な脅威分析には限界があります。ゼロトラストでは詳細な脅威分析と柔軟な対応が可能ですが、運用に必要な専門性とコストが大幅に増加します。
(5)コスト・導入の違い
セキュリティ投資を検討する際、初期コスト、運用コスト、TCO(Total Cost of Ownership)の観点から、UTMとゼロトラストでは大きく異なる投資パターンを示します。
UTMの初期投資重視モデル
UTMファイアウォールは、ハードウェア購入またはライセンス取得による初期投資が中心となります。一度導入すれば、追加の機能ライセンス費用を除いて、大きな追加投資なしに長期間利用できます。
保守費用は比較的予測しやすく、予算計画を立てやすい特徴があります。特に、3年〜5年の減価償却期間で投資効果を測定しやすく、経営層への説明も容易です。
中小企業向けのDBGシリーズのように、初期費用を抑えた製品も提供されており、段階的な機能拡張も可能です。
ゼロトラストの継続投資モデル
ゼロトラストは、多くの場合、クラウドサービスとして提供されるため、月額または年額のサブスクリプション料金が継続的に発生します。初期導入コストは抑えられる場合が多いですが、長期的な運用コストは高くなる傾向があります。
各セキュリティサービスが独立して課金されるため、利用する機能やユーザー数に応じて柔軟にコストを調整できます。しかし、複数のサービスを組み合わせることで、総コストが予想以上に高くなるリスクもあります。
ROI(投資対効果)の評価
UTMでは投資効果を「被害防止額」として計算しやすく、明確なROIを示せます。ゼロトラストでは「ビジネス継続性の確保」「コンプライアンス対応」「将来リスクの軽減」など、定量化が困難な価値も大きく、ROI評価が複雑になります。
2. 企業が選択すべき基準
UTMが適している企業
規模・体制:従業員数300名以下、IT専任者1〜2名
業種:製造業、建設業、小売業など、比較的クローズドなネットワーク環境
優先事項:コスト重視、運用の簡単さ、既存システムとの親和性
ゼロトラストが適している企業
規模・体制:従業員数500名以上、専門的なIT部門を有する
業種:金融業、IT業、コンサルティング業など、高度なセキュリティが要求される
優先事項:最新のセキュリティレベル、クラウド活用、リモートワーク対応
段階的移行という現実解
多くの企業にとって、UTMからゼロトラストへの一気移行は現実的ではありません。既存のUTM環境を活用しながら、段階的にゼロトラストの要素を取り入れる「ハイブリッドアプローチ」が実用的な選択肢となります。
3.【まとめ】UTMとゼロトラストの本質的な5つの違い
現代のセキュリティ環境において、UTMとゼロトラストは異なる課題を解決する、相互補完的な関係にあります。
(1)セキュリティアプローチの違い - 境界防御の確実性 vs 常時検証の徹底性
(2)信頼モデルの違い - 利便性重視の内部信頼 vs セキュリティ重視の継続検証
(3)技術構成の違い - 管理簡単な一体型 vs 柔軟性の高い分散型
(4)運用・管理の違い - 少人数運用の集中管理 vs 高度分析の統合プラットフォーム
(5)コスト・導入の違い - 予測しやすい初期投資 vs 柔軟性の高い継続投資
どちらを選択するかは、企業の規模、業種、IT体制、セキュリティ要件、予算制約などを総合的に判断して決定すべきです。重要なのは、「新しいから良い」「古いから悪い」という単純な判断ではなく、自社の現状と将来計画に最適なソリューションを選択することです。
また、多くの企業にとって現実的なアプローチは、UTMで基盤を固めつつ、段階的にゼロトラストの要素を取り入れる移行戦略でしょう。このような段階的アプローチにより、投資リスクを抑制しながら、将来のセキュリティ環境にも対応できる柔軟な基盤を構築できます。
本コラムで解説した違いを理解した上で、自社に最適なセキュリティ戦略を策定し、持続可能なセキュリティ投資を実現していただければと思います。こうした段階的なアプローチは、D-Link製品を活用した統合セキュリティ環境でも実現可能です。